生徒の生活の問題を、先生がもっと知る必要がある時代

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その他

馬場 久志 先生
埼玉大学 教育学部 教育心理カウンセリング講座  教授 

フォーサイトについてのご意見を埼玉大学教育学部 馬場久志教授から頂きました!

「家庭の問題と言って済まされない時代になっていると感じています」

 これまでは、学校は家庭の問題に踏み込まないようにすることを第一に考えてきました。それに、かつては「生徒が家庭に帰ってからのことは家庭のこと、保護者の問題」とおっしゃっていた先生も多くいました。小中学校はそう言い切れないこともありましたが、高校では普通のことだったかと思います。しかし最近の先生方の認識は大きく変化していると感じます。

それは、子育てと労働をめぐる社会状況の変化によるものが大きいと思います。毎日の仕事で精いっぱいの保護者には、子育てに時間も気持ちも割く余裕がなくなっています。大人たちがストレスを抱えて暮らす中で、子どものことまで気を配っていられないという家庭からの声も聞こえてくるほどです。子どもたちの家庭生活を保護者任せにはできないという思いが、学校教育内外で生まれているように思います。
以前から学校にはスクールカウンセラーが配置されて、生徒や保護者の相談に対応してきました。家庭生活のことも心の問題としての対応はなされてきました。しかし最近はこうした社会の変化を受けて、福祉の専門家が必要だという考えを持つ先生が増えています。文科省でも「スクールソーシャルワーカー」を学校に配置しようという動きもあります。

心の不安だけでなく、社会経済的な面でも生活を支えることが必要で、子どもの家庭環境の問題に対して、学校もできることをやらなければというように変化してきているといえます。

 

「学習環境」へのはたらきかけは、生徒の家庭環境づくりを支援するために学校ができることの一つです。

家庭には家族の考え方があり、もちろん立ち入ってはならない領域があります。このことを十分に尊重した上で、社会の変化に応じて学校にできることは何だろうかと模索していらっしゃるのが、最近の先生方の認識ではないでしょうか。

私が最近よく耳にするのは、生徒の家庭での問題を先生がもっと知る必要がある時代になっているということです。それを知らずには生徒への適切な指導が出来なくなってきているという声が多く聞かれます。

例えばある生徒が家で課題をやってこなかったとして、背景を知らずに「なぜやってこないんだ、やりなさい」と頭ごなしに叱っても響かないことがあります。かといって「家庭で指導してください」と保護者に言っても、一方的な押しつけになってしまうこともあります。「忙しくてそんな暇はありません」と押し問答になった事例も耳にします。生徒の生活実態を丸ごととらえて、どういう支援をすればいいのかと丁寧に考えはたらきかけることが求められると、多くの先生方から伺います。

フォーサイト」手帳は、生徒の「背景」を知る手掛かりになりえるツールである。

 「フォーサイト」手帳を導入するにあたっては留意点がありますね。生徒のプライバシーや、家庭生活という私的時間への十分な尊重は守られなければなりません。また先生が時間を管理するようになると、生徒の生活時間の設計力を奪って受け身の態度が形成される恐れがありますので、生徒の主体性の育成にしっかりと先生方が配慮することが重要です。そこに留意して取り組めば、先生方が生徒をより理解する一つの手立てになると思います。

例えば、生徒の様子がいつもと違う時は、先生はおかしいなと感じながら何だろうと思われるでしょう。それが「フォーサイト」手帳を見ることによって、背景を理解するヒントを見つけられるかもしれないですね。

また「今週の自分」の点数が低かったり、何も書いていなかったりなど、そのようなことも生徒の心理状態の機微を知るヒントになりますね。授業中に寝てばかりいる生徒がいるとして、「フォーサイト」手帳の記入内容から背景がわかれば、「寝るな」ではなく「今日は早く寝なさいね」という声掛けに変えられるかもしれません。声掛けの質が変わり、今まで以上に子どもにやさしくなれるのではないかと思います。生徒が自分の生活を振り返りながら、客観的な記録を作り、それに先生が寄り添っていくというのはすごく良いきっかけになるでしょう。

「フォーサイト」手帳は「自分の所有物」だから良い

多くの学校で学習時間記録プリントなどに取り組んでいると聞いています。配付されたプリントと「フォーサイト」手帳との一番の違いは、「主体性が違う」ことでしょう。「フォーサイト」手帳も、はじめはもちろん先生に支えてもらうことはあるでしょうが、書かされるものでなく、書くという行為の主導権が自分にあるのであり、「自分の持ち物」というのが一番良いところではないでしょうか。多くの生徒が、まず無地の表紙に好きな写真やシールを貼ったり書き込みをして自分らしく表紙を彩るのは、その証拠です。生徒たちにとっては、未来に生きるその出発点に今の毎日が自分のものであるという実感がとても大事なのですが、自分の毎日の時間は自分のものという感覚を、自分の手帳づくりを通してもってもらいたいですね。