村上市立岩船中学校
なりたい自分へ向かう力を育むために
岩船中学校の挑戦の原点 ― “やらされ感”との向き合い
■「自己調整」だけでは変わらなかった初導入
昨年度は「自己調整」をテーマに手帳の活用をスタートしました。
ですが、手帳を書いていても、学校で全員がやっているからというだけが最初のスタートで、
やらされている感が強かったというのが正直なところです。
自己調整という言葉を伝えても、外発的な動機づけから抜け出せなかった。
この1年間の実感が、今年度の方針転換の出発点になりました。
転機になった出会い ― 花巻東高校の先生からの学び
■大谷翔平選手・菊池雄星選手を育てた高校からのヒント
今年度、私たちが掲げているのは
「なりたい自分を見つけて、そこに向かって努力し続けられる子どもたちを、全校で育てたい」という目標です。
きっかけは、昨年の夏に花巻東高校の先生と出会ったことでした。
大谷翔平選手や菊池雄星選手を輩出したこの高校では、
夢の実現に向けた考え方を日々の指導の中で選手たちに伝えています。
■先生との対話から得た気づき
花巻東の先生からお話を伺い学んだのは、目標があって日々の実践をしているだけでは、
何のための目標かが見えなくなってしまうということです。
「なりたい自分」をきちんと作り、そこに向かっていくという考え方を、今、子どもたちに伝えています。
「目的に生きる」という指導観
■なりたい自分・目標・計画・実践、4つのつながり
私が大切にしているのは「目的に生きる」という考え方です。
「なりたい自分」という定性的で幅の広い目的があり、その先に期限や数値を伴う「目標」があり、
さらに具体的な「計画」と「日々の実践」が続く。
この4つが一貫してつながっている状態を、子どもたちに目指してほしいと思っています。
■目標だけでは燃え尽きる ― 自らの審判資格取得の経験から
目標だけを追いかけていると、燃え尽き症候群になってしまいます。
甲子園を目指す球児がその後に力を失ってしまうことがあるように、
目標の先に「なりたい自分」がなければ、達成した瞬間に終わってしまうのです。
私自身、10年かけてバスケットボールの審判資格を取得し、全国中学校体育大会の審判を務めるまでになりましたが、
達成感をあまり感じられませんでした。なんでだろうと思ったら、なりたい自分がなかった。
上司から言われた仕事をただこなしていただけの自分に気づいたのです。
30代半ばで得たこの気づきが、今の指導観の土台になっています。
手帳・講話・面談、3本柱の実践

■部活動の地域移行が生んだ「もったいない時間」
今年度、私たちは「手帳」「月1回の講話」「生徒面談」という3つの取り組みを並行して進めています。
背景にあるのは、部活動の地域移行によって放課後の時間の使い方が大きく変わったことです。
学校全体で部活動がなくなり、16時には子どもたちが家に帰ります。
スマホやゲームの時間は楽しいけれど、何にもなっていない、もったいない時間になっている。
この生まれた時間を、自分自身と向き合う時間に変えていきたいと考えました。
■手帳の使い方と言葉がけの工夫
手帳は毎朝10分間と帰りの学活の時間に記入します。
週の初めには「なりたい自分」と「今週やること」を、平日の朝には前日の振り返りと当日の計画を、
帰りの学活では翌日の授業や持ち物メモを、週末の金曜日には1週間の振り返りを書きます。いずれも生徒全員の必須事項です。
手帳は毎日回収してコメントを付け、その日のうちに返却しています。
1年生の1学期はうまく書けない生徒も多いのですが、
返却のタイミングにどれだけ細かく「ここも書こうね」と声をかけ続けるかが鍵だと思っています。
声かけの際にはまず褒めることを徹底し、そのうえで「ここも書けるといいよ」と理由を添えて伝えるようにしています。
■面談フォーマットの失敗と、シンプルな問いかけへの転換
生徒面談は2ヶ月に1回、1人あたり10分間、担当教員をローテーションしながら行っています。
実は当初、質問項目を細かく定めたフォーマットを用意していたのですが、逆にうまくいきませんでした。
生徒が言うことはまちまちですし、人によって考えていることが全然違います。
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【第1回の面談内容】
0. 人生理念
以前選んだ3の言葉 ________ ________ _______なぜ3つの言葉を選んだのだろう?
1. 将来のビジョン(なりたい自分)
あなたは将来、どんな人になりたいですか?
職業や「こんな性格でありたい」「こんなふうに人の役に立ちたい」など、自由に書いてみましょう。
2. ビジョンに対する思い
なぜ、そのような自分になりたいと思いましたか?
その姿になることで、自分や周りの人にどんな喜びがあると思いますか?
3. 具体的な計画(今、がんばること)
なりたい自分に近づくために、具体的に取り組みたいことは何ですか?
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【第2回の面談内容】
① なりたい自分になるためには、「決断」____% 「方法」___% ?
② あなたが本気で挑戦できない理由は?
どれかにあてはまると、自分の可能性にブレーキをかけているかも?もったいない!
【1】自分への「自信」に関する枠
□「私なんかが頑張っても、たかが知れてるし…」(過小評価)
□「どうせ私なんて何をやってもダメな人間なんだ」(自己否定)
□「今の私じゃまだ早い。もっと自信がついてからにしよう」(自信がない)
【2】「周りの目」や「他人」に関する枠
□「これをやって、周りの人に変な目で見られたらどうしよう」(承認思考)
□「あの子はあんなにすごいのに、それに比べて私は…」(比較思考)
□「あの子に負けるくらいなら、最初からやりたくない」(勝ち負け思考)
□「私が我慢すればみんな丸く収まるから、自分のやりたいことはやめておこう」
(自己犠牲)
□「なんであいつは私の言う通りに動かないんだ!」(人をコントロール)
□「おれが苦しんでいるのは、あいつのせいだ。先生のせいだ。親のせいだ」
(他責・被害者思考)
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【第3回の面談内容】
① 1ヶ月の成長は?
② 夢中になれるなりたい自分を見つけているか?
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(第1回と比べ第3回ではあまり型は作らず、簡素になっているのが見てわかりますね)
型に沿いすぎるとうまくいかないと気づき、
今では「なりたい自分ってどう考えてる?」「そのために何を目標にしてる?」というシンプルな問いかけを軸に、
各教員が自分自身の価値観で対話する形に落ち着きました。
教員によって関わり方が変わることも、生徒にとって多様な価値観に触れる機会になっていると感じています。

生徒と先生、それぞれの変化
■書く習慣がもたらした生徒の変化
継続の効果は、生徒の様子にも表れています。
3年生になると、びっしり書く生徒もいます。
できない生徒もいますが、書く習慣が身に付いたことで、文章を書くことへの苦手意識は減ってきました。
面談についても、熱い気持ちになって本当に変わった生徒もいれば、そうでない生徒もいます。
それはその子それぞれだと感じています。
ただ、月1回の講話では「私も受けたいです」と話す生徒がいるなど、
悩みながらも自分と向き合おうとする姿が見られるようになりました。
■先生方への伝え方 ― 強制しない、でも伝え続ける
この取り組みを他の教員にも広げるため、1学期に1回の職員研修に加えて、
毎月の職員会議後の10分間を使って情報共有を続けています。
ただ、強制はしたくないという思いから、どこまで実践するかは各教員に委ねています。
こういう良さがある、こういう姿になっていく、という話はするけれど、あとは任せる。
生徒と同じで、先生も外発的になってほしくないからです。
研修だけでなく、日常会話の中で「先生自身はどうなりたいですか」と問いかけることも、
先生方の納得感を育てる工夫の一つだと思っています。

今後の展望と他校へのメッセージ
■「これはどこの学校でもできる」という確信
これはどこの学校でもできると思っています。
1人の教員が10人程度を受け持ち、時間をかけて面談をするだけの取り組みですし、
部活動が縮小していく今後は、多くの学校で時間を確保しやすくなるはずです。
■佐藤先生自身の「なりたい自分」に重なる実践
私自身の「なりたい自分」は、関わる縁のある人の自信を育める人になりたい、というものです。
それは、岩船中学校での日々の実践そのものに重なっています。
手帳はあくまで手段であり、その先にある「なぜ書くのか」という問いを子どもたちと、
そして先生たち自身と分かち合い続けること。それがこの取り組みの本質だと思っています。
