奈良県立法隆寺国際高等学校

「本気度」が生徒を動かす。―手帳で受験生の“見通す力”を育てる指導― 

学校プロフィール 奈良県立法隆寺国際高等学校

生徒の変化を生み出す"気づき"の道具 

■自分自身が手帳で知った時間感覚のズレ

手帳と出会ったのは、高校3年生の受験生の頃です。
何をしているのか自分でもわからない状態を何とかしたくて、受験生時代から使っていた手帳を活用し始めました。
使ってみて驚いたのは1週間の自分の「無駄」がはっきり見えること

 

「ここで時間を無駄にしていたな」という、自分の感覚とのズレが数値と記録で視覚的にわかる。
この「見える」ことの価値を強く感じたのが原点です。 

 

■実感を持つことがなかなかできない生徒たちに何を気づかせたかったか 

私が受け持つ学校は受験の厳しさも、やらなければいけないことが何かも、実感として十分にわかっていない子が多いです。
私自身、時間の使い方のズレをふんわりとしか自覚できていませんでしたが、
それを生徒には「目で見て、おかしいとちゃんとわかる」状態にしてあげたいと思い、手帳の使い方を工夫して伝え始めました。 

 

配るだけでは広がらない、という現実 

■生徒に教えることに対してハードルがあった 

手帳を導入すること自体に反対する先生はいませんでした。ただ、実際に「使わせる」段階になると話は変わってきます。
配った時、他の先生たちの表情には「これはできないな」という戸惑いが見えました。
多くの先生自身が手帳の指導をしたことがなかったからだと思います。
過去の生徒の実例を配りはしましたが、それだけでは限界があると感じました。 

 

■まず自分の4クラスで基準をつくる

そこで私は、まず自分が授業を受け持つ4クラスから始めることにしました。
受験にあまり関係のない生徒にも、テスト1〜2週間前からはきちんと書こうという空気をつくる。
「みんなもやっている」という基準が4クラスにできれば、二学期に他のクラスへも広がっていくのではと考えました。
一気に学年全体で徹底させるのではなく、自分の手の届く範囲で前向きな空気をつくり、
そこに乗っかってもらう形を目指したのです
。 

 

"当たり前"に変える見せ合いの力 

■クラスをまたいだ「あの子もやってる」の衝撃 

クラスの中で手帳を見せ合う時間を意識的につくっています
見せ合うと、書いているか、書いていないかが誰の目にも明らかになる。
このピアプレッシャーが、生徒を動かす大きな力です。

 

さらに効果的だったのは、あるクラスで頑張っている生徒の手帳を、まだ浸透していない別のクラスに見せること
「君らの知っているあの子が、これだけやっているんやで」と伝えると、「え、あの子?」という驚きが起こります。
優等生だけでなく、真面目には見えない生徒までやっていると知った時の衝撃こそが、
「自分もやらなければ」という気持ちにつながっていきました。 

 

■ジョブズの逸話と合格体験記で語る

手帳の意味を伝える時は、できるだけエピソードや例え話にすることを意識しています
授業を1コマ潰して受験ホームルームを行い、過去の合格体験記や実際の手帳の実例を紹介したこともあります。
しかし手帳の意味を正面から説明しても、生徒にはなかなか響きません。
ですので、身近な例や生徒でも知っている人物の話に置き換えて伝えるように工夫をしています。

 

例の一つとして「スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着る理由は、
服選びにエネルギーを使わずクリエイティブなことにエネルギーを使うため」という逸話を紹介します。
その話を踏まえて「手帳で前の夜のうちに朝一番にやることを決めておけば、そのエネルギーを勉強に使えるんだよ」と伝えると、
生徒が「そういうことか」と自分事として理解をしてくれます。 

 

 

生徒に寄り添う個別の問いかけ

■「今週どれだけできる?」で軌道修正 

朝7時半から自習室を開放し、希望制で受験を控えた生徒25~30人ほどの手帳に日常的に目を通しています。
個別指導で気をつけているのは、予定を「書いて終わり」にさせないことです
「中期・長期で見たら、いつまでに何を終わらせるつもりだったっけ?」と、短期の視点だけに留まらないよう問いかけます。
「じゃあ今週どれだけする?」「今日一日は何をする?」と目線を段階的に絞り込み、
生徒自身に現在地と足りない部分を考えさせています。 

 

■集中タイプ別に組むルーティン 

生徒には自分の受験生時代のルーティンをプリントにして配っています。
生徒には、すぐに集中できるがすぐ切れるタイプと、集中まで時間がかかるが一度乗ると長く続くタイプがあります。
私自身は前者なので、生活の節目を「切り替えのスイッチ」に使い、集中が続く時間帯には頭を使う科目を、
疲れてきた時間帯には暗記科目を配置しています。

「自分のリズムはこうだから、ここに単語学習を入れている。みんなのリズムはどうなの?」と伝え、
手帳が自己理解のツールであることを実感してもらっています。 

 

手帳が引き出した生徒の変化 

■「面倒くさい」から始まった継続 

ある生徒は、手帳の話を聞いた時、率直に「面倒くさいな」と思ったそうです。
連絡帳すら書けないタイプだったとも話していました。それでも部活動を引退した5月頃から取り組み始め、
途中で書けない日もありながら、今では毎日の習慣になっています。

「時間をどれだけうまく使えているか、何もしていない時間があることが手帳を見たらわかる」と言います。
続けられている理由を尋ねると、「周りのみんなも頑張ってやっているから、自分もやらなきゃという気持ちになる」という答えが返ってきました。
夏期講習では、あるクラス39人全員が手帳を書くようになるところまで広がっています。 

 

 

指導の肝とこれからの展望 

■本気度がすべての土台

一番の理由を挙げるとすれば、私自身の本気度だと思います
指導者がそこにメリットを感じていなければ、生徒は行動に移しません。
私は手帳の価値を自分自身の経験として感じ、実際にずっと使い続けてきました。

 

もう一つ大切なのが、私と生徒だけの関係で終わらせず、生徒同士で見せ合い共有する仕組みをつくることです
友達がやっているという事実は、教師が「大事だよ」と言うよりずっと大きな衝撃を生徒に与えてくれます。 

 

■手帳強調期間という緩急のつけ方 

受験に対しての温度差があり、全員に同じ熱量を求めるのは現実的ではありません。
そこで、普段は自由にしつつ、テストの2週間前からは「手帳強調期間」として
進学先を問わず全員に手帳を書いてもらう運用にしています。
この期間は2〜3日に一度、朝のショートホームルームで進捗を確認します。
クラス全体のリズムが保たれ、書くことが特別ではなく当たり前になっていきます。 

 

■小さく始めて、広げていく 

今はまだ、私が受け持つ4クラスの中で空気をつくっている段階です。
ただ、私がみたクラスの中で小さくつくった「当たり前」が、少しずつ他のクラスにも伝わっていくのではと期待しています。
これから導入を考える先生には、最初から全体で完璧に運用しようとせず、
ずは自分の目の届く範囲で、生徒同士が見せ合い、当たり前だと感じられる空気をつくることから始めてみてほしいと思います。 

 

補足。こんな使い方をしている生徒もいます!

ある生徒の手帳は、表紙が可愛くデコレーションされ、ページは左右に分けて左に前日に立てた予定を、
右に実際にできたことを〇と×で記録し、赤ペンで自分への励ましや、大事なことを書いて奮い立たせるコメントまで書き込まれていました。
マーカーで色分けもされ、達成できなかった時にどう向き合うかまで自分なりのルールができています。
もう一人の生徒は、週間ページに科目ごとの目標欄をつくり、達成度を〇と×で管理したり、
「この習慣は、やめる」という内容を手帳の一番最初に書き込んでいたりしました。

  


インタビューにご協力くださった先生方、生徒の皆さん、ありがとうございました!