宇部鴻城高等学校
必要な機能に絞ることで、手帳は「学びの道具」になる
宇部鴻城高等学校とフォーサイトとの出会い
■他社手帳からの切り替え、全校導入のハードルを下げるという決断
フォーサイト手帳の導入を検討した当時、価格面はとても重要でした。
全校で手帳を導入するとなると、どうしても「使いたい」という教員と
「そこまで必要性を感じていない」教員との間に温度差が出ます。
そこにご家庭の負担が重なると、せっかくご購入いただいても使われないという事態になりかねません。
私立高校ですから、授業料以外にもご家庭の負担は少なくありません。
できるだけご負担を抑えながら、全校で導入できる条件を整えられること。
その導入のハードルを一段下げることで、もう一度みんなで一からスタートしたい。
それが、導入を決めた大きな理由でした。
■手帳に込めた最初の願い――記録とコミュニケーションのツールとして
価格面での導入のハードルを下げても、意味に納得してもらえなければ現場には広がりません。
私自身は当時学年主任をしており、まず自分の学年だけでも使ってみたいと考えていました。
他学年に声をかけると「うちも使います」と広がっていったので、比較的導入しやすかったと思います。
最初に手帳に込めた願いは、実は「計画を立てる力」より先に「記録を残すこと」でした。
本校では計画を立てることに難しさを感じる生徒もおり、
まずは日記に近い形で毎日の記録を積み重ねてほしいと考えていました。
ちょうど入試でポートフォリオが重視され始めていた時期とも重なります。
そしてもう一つ、必ず提出させることを通じて、生徒との日々のコミュニケーションのきっかけにしたいという思いもありました。
「言語化」の壁とアクティブリコールとの出会い
■うまくいかなかった文章化指導の試行錯誤
手帳を数年使ってみると、次に悩んだのは「言語化」でした。
ある先生から教わった、接続詞を使いながら40字程度でまとめるという文章化のメソッドを試したこともあります。
生徒にも取り組んでもらったのですが、目的とうまく重ならず、正直なところしっくりきませんでした。
手帳のスペースもそれほど大きくはないので、そこに論理的な文章を書かせようとすると難しさばかりが目立ちます。
結局この方法は長続きせず、私自身また迷い始めていました。
■リトリーバル理論との出会いと手帳活用のひらめき
そんな時に出会ったのが「リトリーバル」という考え方です。
スタンフォード大学の研究をもとにした書籍を読み、一日の振り返りをすること、
例えばその日やったことを思い出すだけでも記憶の定着につながるという話に触れました。
読んだ瞬間、「このスケジュール帳がうまく使えないだろうか」というひらめきが生まれたのです。
生徒には「リトリーバルとは?」というプリントを配り、
特に「アクティブリコール」、友達に説明してみることで記憶を定着させる方法を紹介しました。
手帳をただ「楽しかった」で終わらせず、学習に関することを書く場所として位置づけ直した瞬間でした。
▶実際に配ったプリント
https://www.sales-doc.com/lUvq7tobzr
手帳を学びの道具に変える具体的な工夫
■帰りのホームルームで行う3人組の振り返りトレーニング
最初の2か月ほどは、帰りのホームルームで5分ほど時間を取り、3人組をつくって取り組みました。
司会役を交代しながら、1時間目から6時間目までの授業を、何も見ずにお互いに説明し合うのです。
数学なら「今日は因数分解をやりました」「ここが大事だと思いました」というように、簡単な一言、二言で説明していきます。
説明できなかったことがあれば、それその部分はまだ理解しきれていないということです。
そのままにせず、手帳の放課後欄に「今日やること」として書かせ、家庭学習につなげました。
グループディスカッションが苦手な生徒が多いという課題もあり、
言語化と司会進行の練習を兼ねる時間にもなりました。2か月続けたあとは、
自分ひとりでもできるようにと個人実施に切り替えました。

■時間割欄・チェック欄・放課後欄を使い分ける仕組み
今の運用では、
時間割欄にその日やった内容を書き、説明できた項目には右端のチェック欄にチェックを入れます。
チェックがついていない項目が、そのまま自分の課題です。
放課後欄には、勉強を始める前に一日を振り返り、何を勉強するかを短くメモします。
そして一日の終わりには、今日できたこと・できなかったことを言語化して振り返り欄に書きます。
できなかったことは「スペーシング」の考え方を使い、
1日後や3日後、時には1か月後にもう一度取り組む予定をやることの欄に書いています。
1週間単位の振り返り欄はあえて重視していません。
最初に計画を立てきることよりも、毎日「できなかったことをできるようになる」積み重ねこそが、
生徒にとっての本当の成長だと考えているからです。

無理なく続ける、私の運用フロー
■列ごとの回収と朝のコメントタイム
今のクラスは1学年18人ほどで、月曜日は1列目、火曜日は2列目というように、
曜日ごとに担当の列を決めて回収しています。
多くても4人ほどなので、朝のうちに係の生徒が集めて持ってきてくれたものを、
空き時間に目を通して教室まで返しに行くという流れです。
全員分を毎日見るわけではないからこそ、出したものにはできるだけ早く返すことを意識しています。
この規模だからこそ、無理なく続けられているというのが実感です。
■叱らないコメント、できたことも見つける関わり方
チェックがついていない、書かれていないと気づいたときも、
責めるのではなく「ここは分かりましたか?」と問いかけるようにしています。
学習の様子や手帳の書きぶりを見ながら、できるだけコメントを書いて返していますが、
これは生徒を管理するためではありません。
手帳を書くこと自体が私たちとの一つの約束であり、
「やらない習慣」ではなく「やる習慣」を続けてほしいという思いを込めています。
3年生になったら、生徒の主体性に任せようと考えていますが、
1、2年生のうちは手をかけながら、自分のために書く感覚を育てていきたいと考えています。
生徒の変化と、目的を持って使うことの大切さ
■コメントを心待ちにする生徒たち、変わっていく提出物
手帳が返却された瞬間、生徒たちがまず自分へのコメントをさっと見てくれる姿があります。
全員が完璧にできているわけではありませんが、書こうとする生徒は確実に増えてきました。
書かれる内容も、以前は「疲れた」「楽しかった」といった感想が中心でしたが、
今では「今日は数学の何々が理解できた」というように、学習内容を具体的に言葉にできる生徒が増えています。
できたことを書くのは自己肯定感につながりますし、できなかったことを書けば、それが次にやるべきことになる。
この積み重ねが、生徒の記述の質を変えてきたと感じています。
■全部を使いこなさなくていい――これからの一年と他校へのメッセージ
今年あらためて実感しているのは、手帳のすべての欄、すべての機能を無理に使いこなす必要はないということです。
私が今、生徒に求めているのは、
アクティブリコールによる振り返りと、できなかったことをいつやるかという「スペーシング」の計画、この二つだけです。
それ以外の欄は、資格試験の日程から逆算して書き込む生徒がいるように、
それぞれが自由に使ってくれればいいと思っています。
目的を一つに絞り、そこに丁寧にコメントを返し続けることの方が、
あれもこれもと欄を埋めさせることよりずっと効果があると感じています。
これから導入を考えている先生方にも、まず自校で大事にしたい目的を一つ決めて、
そこから始めてみることをお伝えしたいです。
